終末期の栄養補給について
病気や加齢により水分・食事の摂取が難しくなってきた方やご家族様へ
長寿高齢化社会の現在、老衰や認知症の進行、脳血管障害の後遺症により、水分や食事を嚥下(飲み込む)する力が衰え、生命を維持するために必要な水分・食事量を口から充分摂ることができなくなる方が増加しています。このような方に無理に飲んだり、食べたりさせると誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。そのような状態になった場合、水分・栄養の補給について下記のような方法があります。
多くの場合患者様本人の意思をうかがうことが難しく、どの方法をとるかはご家族様の意思で決定していただきます。これは治療というより延命処置なのでーつの正解はなく、我々医師を含め医療介護従事者はご家族様の意思を尊重し、ご本人の苦痛のない安楽な生活を支援します。

【方法、長所、短所】
1.経管栄養
鼻から胃に入れた管や、特殊な方法でお腹から直接胃に通した管(胃ろう)から液体状の栄養や水分を注入する方法です。
本来の消化管から吸収するので生理的であり、内服薬も注入できます。しかし鼻から入っている場合は鼻やのどに違和感があり、胃ろうの場合は病院で胃力メラをしながら簡単な手術をすることになるので体に負担があります。また胃に入った液体が逆流して嘔吐したり、それが原因で誤嚥性肺炎を起こす可能性もあります。栄養注入は法的に看護行為とされていて、介護職員は特定の研修を受けないとできず、看護師やご家族に行ってもらわなくてはなりません。
2.点滴
手足の静脈に刺した管や、胸の上や足の付け根の太い血管に留置した管(IVH)から栄養を含んだ清潔な液体を注入(点滴)する方法です。
消化管を使わないため特殊な場合以外は嘔吐はなくなります。IVHでは濃い点滴が可能なので十分な栄養が投与できますが、手足の静脈からは濃い点滴ができない(血管炎を起こす)ため1日400カロリーくらいしか投与できません。手足の点滴は毎日静脈に針を刺さなければならず、だんだんさせる静脈がなくなる可能性があります。IVHの場合毎日痛い思いはしませんが、管からばい菌が入ると敗血症となり生命にかかわる感染症になる場合があります。またIVHは最初病院でレントゲンを見ながら管を入れなければならずそれに伴う合併症もいくつかあります。
3.経管栄養、点滴をせずに自然経過としてご本人が口から取れる分だけを摂取してもらう方法
上記経管栄養、点滴はいわゆる延命行為です。口から取れなくなってきたことを自然経過、寿命として受け止め延命行為はしないという選択もあります。これは決して反社会的行為ではなく考慮すべき選択肢の一つと考えています。最近はこれを平穏死ということもあります。